隙間の仕事

見知らぬ土地で、仕事と家の往復。兄の暮らしを思い巡らし、姉にそっと言ってみた。「単調な生活だと張り合いがないから、趣味とか、楽しいことがあったらええね」。すると姉は「そんな甘いこと言うてる場合ではない。とにかく仕事を安定させることが第一」と言下に私の考えを切り捨てた。

そう、姉は正しい。ちょっとアルバイトが見つかったとはいえ、安穏と仕事が続くわけでもなく、いつクビを切られるかわからない。そうなれば、ますます仕事にありつける確立が低くなる。すでに社会のどん底に追いやられているのだ。

案の定、倉庫関係の仕事はローテーションが緩やかになり、時間をもてあますようになった。兄のような何の資格もない中年オトコにできる仕事といったら、かなり限られてしまい、定番といえば、警備関係で、それの派遣登録もした。

すぐに打診があったのは、郵便局の警備で、日中建物の前に立つという内容。郵便局強盗が一時期頻発し、警備員が配置されるようになったために、このような仕事ができたのだろうか。兄はさっそくその業務に就いたのだが、偶然の皮肉とはオソロシイ。Y市には20以上の郵便局があるというのに、あろうことか、実家近くの郵便局の担当になったのである。

制服を着た兄が一日中立っている。実家に寄って昼ごはんを食べることもない。母もあえて声をかけない。長身なので、制服の丈が微妙に短く、警備のオジサンにしては若く見えてしまうので、痛々しささえ感じてしまう。

数ヶ月働いたが、時給がべらぼうに安いのと(高校生なみの700円台前半)、兄の脚には静脈瘤があって、立ちっぱなしの仕事はつらいということで、これも辞めた。

その次見つかった仕事は工場のラインの掛け持ち。ひとつだけでは時間が中途半端にあまり、すなわち稼ぎも少ないので、2つを掛け持ちすることになった。これらは姉が新聞の折込チラシで見つけたものである。

乳飲料関連の工場と、コンビニで販売する商品を管理する工場。乳飲料関連は冷蔵庫での作業で、コンビニは、商品を運ぶケースを熱湯消毒するため熱いらしい。決してラクではなく、きつそうだし、コンビニのほうは夜勤である。このふたつの合計で月15,6万円ほどになっただろうか。

私が金額を知っているのは、姉が兄の給料を管理しており、ときどき通帳を見せてもらうから。姉は居候している兄の経費を差し引き、最低限の小遣いを兄に与えて、残りを貯金した。小遣いといっても煙草や酒を買ったり、外食をしようものなら、すぐになくなる程度の金額である。

そして”チリも積もれば山となる”で、貯金が30万円近くになった。兄に全額をまかせていたら、露となって消えていたであろうお金であった。