怪しい団体

兄と奇跡的(?)に会えた日の帰り、私と姉は電車のなかで「まさか図書館ですぐ見つかるとはドラマみたいな話やな」とか「割合ましな格好でよかったなあ」と口々に言い合った。そして兄は本気で自分の身辺を整理し、交通費をためるかなあと思った。

しばらくして兄が公衆電話からコレクトコールをしてきた。電話代がかかるため、そうしてくれと言っていたのだ。兄の話によると、あれから交番に行き、年金手帳と外国人登録証の盗難届を出したという。そして年金手帳の再発行については私から社会保険事務所に電話をし、手続きについて調べることになった。

そんなやりとりが何回かあったあと、兄がおかしな話を聞いてきた。A公園に市民団体を名乗る人が来て、名刺をもらったそうなのだが、話の内容はというと、「生活保護受給を代行する。寝泊りできる場所はあるのでそこで生活したらいいし、こづかいもくれる」というものだった。

兄はどうしようかというので、ちょっと調べるから待ってと言い、電話を切った。その団体が生活保護費をピンハネしているだろうということはカンタンに想像できた。A公園で地道にボランティア活動をしている団体には空き缶拾い以外の仕事のことについて電話をしたことがあったので、そのおかしな話について尋ねてみた。「それを選ぶかどうかは本人の自由ですが、あまりオススメではない」と婉曲な批判をし、もっと強く批判してくれるのかなと思ったのだが、意外であった。まあ、当事者からの相談だともっと親身に答えてくれるのであろうが。

しばらくして兄から電話があったので、「その団体は怪しげであり、生活保護費を相当ピンハネしている」という趣旨を話した。兄もまた「たこ部屋みたいなところに押しこまれる」という情報を耳にしたようで、この話はこれっきりとなったが、経済的、精神的に追い込まれているときは、多少怪しかろうと、美味しい話には耳を傾けてしまうのだろう。

数年後、生活保護の代行・ピンハネ等については新聞などで報道され、社会問題となったが、表面化する前から怪しげな団体が各地で暗躍していたのである。