リストラされた側

今から3年前のことである。地方都市に住む兄が家賃を滞納しているらしいことが、アパートの近所に住むオバサンからの連絡でわかった。独身の兄の身の回りを気遣って、母は老いた身で年に1度、掃除に出かけていたが、その際にアパートのお向かいに住むオバサンと仲良くなったという。

じっとしていても事態は変わらないし、行動を起こさないといけない。意を決して家財処分と家賃の清算のために、私と母、長姉の3人で向かった。もしかしたら、アパートでばったり兄と会うかもしれないし、とにかく事情を知りたかったのだ。長い時間、電車に揺られて目的の駅に着いた。ちょうど、お盆前の今ごろで、暑い日だった。

アパートに着き、室内を調べると案の定、ここ数か月、住んでいた気配がない。今日中に家財を処分してしまわないと不要な家賃を払うはめになるため、私たちは作業を急いだ。少ない家財を外に放り出し、不用品はごみ袋に押し込んだ。ちょうど、数日後が粗大ごみの日らしく、道の隅に不用品を置いておくことができ、助かった。

使える電化製品をお向かいに譲ると、部屋はもぬけの殻のようにすっかり荷物がなくなった。大家さんというのがおそろしく年老いたおばあさんで、くの字に曲がった背中で器用に自転車に乗ってやって来た。このおばあさんの話す方言がぜんぜん理解できず、もしかしたら緊迫した状況かもしれないのに、作業の疲れも出て私たちの緊張の糸は切れてしまった。そして家賃を清算してしまうと、もうそのアパートとは縁が切れた。

兄が会社(一応、大手企業・・・)をリストラされ、再就職をしたことまでは聞いていたが、その後は音沙汰がなかった。ただ、わかっていることは、サラ金に手を出して逃げてしまったということ。たんすの中から督促状が何枚も見つかったのである。

母は過去に訪問した際、兄に邪険にされたことを思い出して怒っているし、長姉は兄の情けない所業を罵っている。私はリストラをひと事のように思っていたが、企業は生き残っても社員の人生は台無になるんだなあとぼんやりと考えながら、帰途についたのだが、この話には長い続きがある。それはまた明日。